【作品紹介】小説『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』

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『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』。タイトルからして強烈なインパクトがあります。今回はこの本を紹介していきましょう。

本作は「ホームズ・パスティーシュ」と呼ばれる、シャーロック・ホームズの二次創作のひとつです。ホームズは説明の必要がないほどの有名なキャラクターであり、ファンも星の数ほど存在します。そうしたファンの中には作家もおり、時たまこのようにして二次創作を手がけたりする場合がある、ということです。

物語は、ホームズが宿敵のモリアーティ教授と決着をつけるシーンから始まります。モリアーティとの死闘を制したホームズは、とある理由から、自らも死んだことにして社会から身を隠すのですが、その時期に日本へ渡り、事件に遭遇します。その事件を、伊藤博文とともに解決していくことになります。

ホームズが日本で遭遇する事件というのは、大津事件のことです。これは、実際にあった事件です。来日していたロシアの皇太子が、津田三蔵という男に刃物で斬りつけられるのですが、その津田三蔵の処罰をめぐって日本とロシアが対立することになります。自国の皇太子が襲われたロシアは当然ながら犯人の死刑を要求するのですが、当時の日本では、外国の要人が襲われることへの法整備がなく、また殺人が行われたわけでもないので、津田を死刑にする法的根拠がありません。当時の日本は明治初期の時代で、外国に追いつくため、日本を法治国家として確立しようという情勢でした。そのため、ロシアからの要求を突っぱねざるを得なかったのですが、それによって相手とのあいだに緊張が高まり、戦争が起こりかねない状況になってしまいます。

これ以上は長くなってしまうので、大津事件の詳しい情報はWikipediaを参照してください。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B4%A5%E4%BA%8B%E4%BB%B6ja.wikipedia.org

ともあれ、ホームズは日本とロシアの戦争を回避するため、大津事件の真相を探っていくことになります。当然ですが、本作で提示される「事件の真相」は、あくまでフィクションです。しかし、そこで描かれるテーマ──「法治国家とは何か」──には、普遍的な意味があります。

本作の真価は、シャーロック・ホームズという架空の存在を、伊藤博文や大津事件という実際の人物・事件と絡めつつ、しっかりしたテーマを描いている点にあります。そういった点で、単にファンが好き勝手に書いた二次創作とは一線を画しています。

エンターテインメントとしてはどうでしょう。本作はホームズの視点で描かれており、大津事件への関わりが伝聞情報から入るため、序盤こそ立ち上がりが遅い印象です。しかし、中盤から終盤にかけては怒涛の展開で、一気に引き込まれます。テーマ面だけでなく、話運びも面白いのです、本作は。

タイトルの強烈さから奇天烈な展開を想像してしまいがちですが、実際の本作はどっしりと地に足がついた、上質な小説作品です。シャーロック・ホームズのファンではない人が読んでも面白いでしょう。もちろん、伊藤博文のファンではない人でも大丈夫です。

さて、あらすじからわかるとおり、この物語においてはホームズと伊藤博文は協力関係にあります。そうするとこれはタイトル詐欺ではないかと思われるかもしれませんが、違います。ホームズと伊藤博文は、たびたび重要な局面で対立することになります。なぜ、ふたりは対立するのか。そして物語を終えたとき、ふたりの関係はどうなっているのか。それは、本作を読んで確かめてください。