Appleは教室の中にクリエイティビティをもたらすことができるのか?

スポンサーリンク

2018年3月の終わり頃、Appleの製品発表会がありました。そこで新バージョンのiPadが発表されたのですが、重要だったのは製品ではなく、Appleの教育に対する取り組みでした。

どうやらAppleは、iPadを学校の中で使ってほしいと考えているようです。教師側がクラス中のiPadを管理できるアプリを開発したり、「Everyone Can Create」といった授業の中にクリエイティブな表現を取り入れるカリキュラムを作成したりと、むしろ発表会のメインはこうした教育向けサービスにありました。

www.apple.com

教育向けに力を入れる背景には、Google製のノートPC、Chromebookのヒットがあります。かつてはアメリカで教育向けといえばMacでしたが、いつの間にか、その座はChromebookに奪われてしまいました。そこでAppleは、この新しいiPadで王座を奪還しようと考えているのです。

そしてChromebookに対抗するために「クリエイティビティ」という側面をプッシュしているのですが……はたして、Appleのこの試みは成功するのでしょうか?

まず、そもそも論として、「iPadで創造性を育成できるか?」という点から見ていきましょう。

iPadはアプリをインストールすることで、動画の撮影と編集、音楽の制作、スケッチなどができます。これらの点を見れば、iPadがクリエイティブな作業に向いていることは一目瞭然です。

しかし、「クリエイティブな作業をすること」と「クリエイティビティを育成すること」は、似ているようで異なります。クリエイティビティに必要なのは、まずなによりも「何を作るのか?」という発想なのです。

そして「発想」を「教育する」ということは、基本的にできません。教育とは、何が正しくて何が間違っているのかを、教師が採点することです。一方で発想とは、誰かからの採点とは無縁な、個人の自由な精神から生まれるものです。

つまり、教育と創造性は、そもそもが相反する概念なのです。

そのため、iPadでできるのは、せいぜいが「創作の基礎的な技術」を教えることだけでしょう。それ以上のものにはなりえません。

とはいえ、基礎的な技術を教えられるだけでも充分だと言えるかもしれません。ただ、幼少の頃からiPadに慣れることによって、その人の創造性が「iPadで可能なことだけやる」というふうに狭まってしまう危険性もあります。これに関しては、今のところ判断がつきません。

では、教育はどのように生徒の創造性に貢献すればいいのでしょうか?

その答えは、生徒が学校に拘束される時間を短くすることです。授業を効率化し、減らしていくことによって、生徒の自由時間を増やします。その自由時間で、生徒は外で遊んだり、自然を観察したり、ほかの芸術を鑑賞したりすることで、それぞれ創造性を伸ばしていきます。

そういう意味で、教育にとって必要なITサービスとは、おしゃれな端末やアプリなどではなく、1秒でも授業時間を短くしてくれる効率的なツールです。

この効率化という面においてiPadはどうなのか、という命題ですが、正直なところ、Chromebookに対抗できるとは思えません。

まず、学校にiPadを導入するとなると、教師側はiPadを活用した教育プログラムについて、1から学ばなければなりません。そもそもiPadユーザーであっても、使い方は個人ごとにバラバラです。ガレージバンドやiMovieを1回も使ったことがない人はざらですし、ドキュメントツールだって、PagesよりMS Wordを使用している人のほうが多いのでは……と思います。これらの使い方を生徒に教えるまえに、まず教師が勉強しなければなりません。

それに加えて、iPadはペンが別売りになっています。おまけに、キーボードを使う場合も別に用意しなければいけません。

これら導入のための初期コストが高いのに加えて、子供たちが端末を壊してしまう可能性についても考える必要があります。特に、モニターガラス。いくら強固とはいえ、ぱたんと折りたためるノートPCに比べると、どうしても壊れやすくなります。予防のためにカバーを買おうとなると、そこでもやはりコストがかかります。

つまり、iPadはあらゆる面で、導入のためのコストがChromebookに比べて高いのです。これではエリート校のような、資金が潤沢にある一部の教育機関しか導入できないでしょう。

一方、Chromebookがアメリカの教育機関で支持されているのは、いつも日常的に使っているGoogleの各種サービスをそのまま利用できるからです。このため、端末の安さとあいまって、導入コストを低く抑えることができます。

また、導入の目的も明確です。Googleの教育機関向けサービス(Googleクラスルーム)のサイトを見ると、そこにはまず「ペーパーワークを減らして」というコピーが目に入ります。Googleが目指しているのは「教育の効率化」なのです。

なるほど、教師にとって生徒になにを教えるのかはバラバラでも、「教育を効率化したい」という点では全体一致しています。だから受け入れられやすいのです。

edu.google.com

念のために言っておくと、将来的にタブレット端末が教育の場で主流になっていく可能性は大いにあると思います。しかし、現状のiPadではコストが高すぎる、ということです。

まとめると、教育の場で「創造性」をプッシュするのは難しい。それよりも「効率化」という面をプッシュしていくべき。だが現状のiPadではコストが高いので、その点を全力で改善していく。Appleが教育市場で巻き返すには、それしかありません。

wired.jp