大和は建造の過程にこそ最大の価値があった〜『戦艦大和誕生(上巻・下巻)』読書メモ

日本軍事史のなかでも零戦と並んで有名な戦艦大和、その誕生にまつわる話を書いたノンフィクション、それが『戦艦大和誕生』である。

主に「大和」建造に大きな功績を果たした西島技術大佐を中心に、いかに大和の建造方式が革新的だったかがわかるようになっている。それを端的に示す事実として、大和の船体建造に要した総工数が、三菱重工が担当した二号艦「武蔵」のほぼ2分1だったことが挙げられる。ちなみに両者は同型艦であるため、当然ながら同じ図面から建造されている。

なぜ、同じ図面で建造されたのに、ここまで明確な差が出たのか? その理由を明らかにするのが本書の狙いだ。

図面が同じで工数が倍近く差が出る。こうなった理由は、大和の建造が効率化されていたからである。より具体的に言えば、建造に際して「工数管理」という概念が本格的に導入されたのだ。本書によれば、それまでの工数管理というものは、現場の技術者たちが経験と勘に頼ってやっていたのだという。そこにおいて西島大佐は、かかる工数をグラフに描いたりなどして、徹底的に「見える化」を行った。それにより、どこが遅れていて、逆にどこが進んでいるのか、はっきりわかるようになった。

次に重要なのは「ブロック工法」である。ブロック工法とは、船体構造を各ブロックに分割し、それらを複数の工場内で完成させてから、1ヶ所に集め、溶接によってつなげていくという方式である。

「工数管理」と「ブロック工法」。この2つが組み合わさることによって、大和の建造はかぎりなく効率化を果たした。

多くの人が知っているとおり、戦艦大和のコンセプトは時代遅れだった。戦闘機が海洋戦の主流となっていくなかで、「アウトレンジからの攻撃」を想定していた大和の存在は、敵軍からすれば既に脅威ですらなかった。

しかし一方で、大和の建造過程には大きな意味があった。ここで培われた「ブロック工法」や「工数管理」が、後にトヨタ生産方式などに取り入れられ、戦後の高度経済成長につながったからだ。

大和の存在は、戦力面で見ればほぼ無価値である。建造のノウハウ面にこそ、大和最大の価値があるのだ。

さらに深く考えていくと、「ブロック工法」や「工数管理」を生み出したことは、西島大佐の本質ではない。大佐の本質は徹底した合理思考にあった。この「合理思考」こそ、真に学ぶべきことなのだ。

仮に、西島大佐が現代に生きていて、なにかの事業を興したとしよう。その場合、大佐は合理思考によって、現代ならではの施策を打ち出したはずだ。当時には当時の、現代には現代の合理がある。合理思考とは、今打てる手のなかで最善手を考えることだ。

では、現代における合理とはなんだろうか? ビジネス的な側面から、ひとつの例を挙げてみよう。

下巻において、太平洋戦争の本質は技術戦であると総括されていた。この場合における「技術」とは、いかに戦闘機や補給艦を量産するか、という意味である。量産性が勝負を決めたと言ってもいい。

そして戦後、ビジネスの世界でも、やはり量産性が重要だった。良い製品をいかに安く、いかに大量に生産するか。そこにすべてがかかっていた。

しかし、デジタル技術が進化し、ソフトウェアやウェブサービスが商売として成り立つようになると、もはや量産性は重要ではなくなった。デジタルの世界では、コピーが簡単だからである。

現代は、もはや量産性で競う時代ではない。

現代で重要になるのは、創造力である。これに関してはnoteのほうで書いたので、そちらを読んでみてほしい。

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文庫 戦艦大和誕生(上): 西島技術大佐の未公開記録 (草思社文庫)

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文庫 戦艦大和誕生(下): 「生産大国日本」の源流 (草思社文庫)

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