『サイコ』は一本の刀のように

Netflixでアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』が配信されていた。リメイク版ではない、オリジナルの『サイコ』だ。もう何度も見た映画だが、それでもまた視聴してしまった。この映画は名作すぎる。だから、何度見ても面白い。

冒頭、女が大金をくすねて逃亡するシーン。女が挙動不審すぎて面白い。さっそくサングラスの警官に目をつけられてしまう。この警官の追跡がじわじわ精神を追い詰めるようで恐怖がある。「つい大金に手を出してしまって大変なことになった」という感じがよく出ている。

そして女は逃亡の末、ベイツ・モーテルにやってくる。そこが悪魔の居城だとも知らずに……。

応接間でノーマンと女が会話するシーン。鳥の剥製や覗き穴などでノーマンの異常性が早くも示唆されている。

伝説のシャワーシーン。実際にナイフで刺しているところは描かず、短いカットの連続で暴力を描写している。直後、排水口に女の血が流れていくのを見せることで、生命が失われてしまったことを暗示。

連続したカットのあとに、死体となった女をじっくりねっとり映す。この緩急が素晴らしい。

次の殺人は探偵が殺されるシーンだが、ここも鮮やか。

階段を上がっていく探偵と、いきなりドアから出てくる犯人を俯瞰視点で映す。シャワーシーンでもそうだが、殺人の際に「キン、キン、キン、キン」という音が鳴ることで瞬発的に緊張感を高めている。

上がってきた階段を後ろ向きに倒れ込んでいく探偵。この対比もまた生命が失われたことの暗示だ。

このあと、残った人物と保安官の会話で、ノーマンの母がすでに死んでいる事実が明かされる。ラストの伏線であると同時に、さらなる謎を追加することで視聴者を飽きさせない工夫でもある。

そして、地下室でのクライマックス。

女の妹がミイラにびっくりして悲鳴を上げる。その直後、やばい格好の犯人が出てきて悲鳴がぴたりと止み、呆然とする。

人間は信じがたいものを見たとき、悲鳴すら失う。そういう哲学がある。

また、そこからぐだぐだと格闘をせず、あっさり犯人を確保してしまうところもいい。ここで格闘シーンなんか入れたら犯人登場のインパクトが薄れてしまう。

最後は、沼から車を引き上げるところを映し、事件が終わったことを示唆して幕。

この幕でぱっと映画が終わるところも素晴らしい(エンドクレジットがない)。

全体を通して、実にシャープな映画だ。名刀のような斬れ味がある。そう、まさにこの映画は、ヒッチコックが研ぎ澄ました一本の刀なのだ。

サイコ (字幕版)

サイコ (字幕版)