ゾラの傑作短編集で結婚の闇を見る

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以前、Amazonで購入した『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家~ゾラ傑作短篇集~』を読んだ。ゾラの作品自体、読むのは初めてだったが、とても面白かった。

傑作短編集というだけあり、どれも傑作なのだが、その中でも『シャーブル氏の貝』と『スルディス夫人』が印象に残った。

シャーブル氏の貝

『シャーブル氏の貝』は、主人公(シャーブル氏)の妻が浮気をするのだが、そのことを主人公が最後まで知らないという悲劇が軽い調子で描かれている。

序盤、シャーブル氏の妻が海で泳いでいるのだが、シャーブル氏はカナヅチなので、妻が泳いでいるの陸地から見ている。そこで妻は、同じくスイミングを楽しんでいた知人の男で出会う。もうこの時点で浮気の予感がする。

案の定、この出会いをきっかけに、知人の男とシャーブル夫妻はたびたび会うようになる。その中で、知人の男と妻が愛を育んでいくのだが、シャーブル氏はそのことにまったく気がつかない。

しかし、シャーブル氏は常に妻の行き先についていくので、妻はなかなか知人の男とふたりきりになることができない。最終的に、妻と知人の男はシャーブル氏を出し抜いてふたりきりになり、情熱的なセックスをする。それが原因で妻は妊娠するのだが、シャーブル氏は自分の子供だと信じて疑わない。この、シャーブル氏の最後までなにも気づかない感じが面白かった。

実はストーリーのバックグラウンドとして、シャーブル氏と妻は不妊治療に臨んでいるという設定がある。子供が生まれないのはシャーブル氏の精子に問題があるようだ。その治療の方法が「シャーブル氏が海鮮物をひたすら食べる」というものなのだが、本当にこんな治療方法があるのかどうか、僕は知らない。

妻が浮気のことを秘密にしているかぎりは、ハッピーエンドという気がしないでもない。

明らかにシャーブル氏は被害者なのだが、シャーブル氏と妻は性格的に合わないということが何度も描写されているので、そこまで悲劇的には感じない。むしろ、なるべくしてなった結果だと思える。ライトに読めるNTR作品だと言えるだろう。

スルディス夫人

『スルディス夫人』は、非凡な才能を持った画家が、自分の妻に才能を食われてしまうという悲劇を描いている。

フェルディナン・スルディスは画家として非凡な才能を持っていた。画材店の娘であるアデルは、そんなフェルディナンを好きになった。あるとき、アデルはフェルディナンの私生活を支援するため、結婚を持ちかける。フェルディナンにとってアデルは好みのタイプの女性ではなかったが、芸術を極めるために便利なので結婚することにする。現代でいうところの契約結婚だろう。

結婚して都会に出たフェルディナンは、作品を発表し、大評判を得る。しかし、結婚によって私生活が安定したことで、フェルディナンの絵に対する情熱はむしろ薄れてしまう。そこで少しずつ、アデルがフェルディナンの仕事を手伝うようになっていく。

アデルが絵を手伝うようになってから、フェルディナンは定期的に作品を発表できるようになる。しかし、その絵は「無難な良い絵」であって、フェルディナン本来の個性は失われていた。

絵自体は売れていくのだが、それにともない、フェルディナンの情熱はますます失われていき、気づけばほとんどアデルひとりで絵を仕上げるようになっていった。そうしてついに、アデルはフェルディナンの才能を完全に食ってしまったのである。

もともとアデルは、フェルディナンの才能に惹かれて彼を好きになったはずなのだが、彼を手伝うことによって、その才能を潰してしまうという悲劇。

しかし、完全に自分ひとりで絵を描くようになっても、アデルは、作品はフェルディナンのものだと公言して憚らない。自分自身でもそう信じ切っているのだ。もはや妄想の世界に生きている。ちょっとしたホラーだ。

こうしてみると、両方とも夫が妻に出し抜かれてしまうというストーリーだ。なぜ、こういうストーリーが面白いのか。理由を考えてみたが、おそらく、結婚の闇が垣間見られるからだろう。