「なあ、頼むよ。ほんの少しでいい、やめるために必要なんだ……」
「死ぬよ」
「構わないさ。俺なんて、ただの役立たずだ」
「今はね。でも、昔は人を助けようとしてた……。福祉関係よね?」
「……俺には誰も助けられない」
「今なら変われるわ」
Netflix限定オリジナルドラマ『ジェシカ・ジョーンズ』のあらすじと感想、今回は第5話。
前回のレビューはこちら。
あらすじ
エピソード5 - AKA 着ぐるみが命の恩人
キルグレイブのスパイ、それは隣人のマルコムだった。
マルコムのことを調べるジェシカとトリシュ。彼がキルグレイブと会ったのは半年前。その前後の写真を見比べると、様子が180度変わっていた。キルグレイブの能力は12時間しかつづかない。それ以上の時間を支配しておくために、彼はマルコムをクスリ漬けにしたのだ。
毎朝マルコムは外出し、午前10時にキルグレイブと会って写真を渡す。その見返りに、彼は麻薬をもらっていた。
かわいそうなことだが、これは逆にチャンスでもある。朝、マルコムの後をつけていけば、キルグレイブの居場所を知ることができるのだから。
ジェシカはキルグレイブを捕まえるため、トリシュに協力を頼みに行く。すると、トリシュの部屋にはシンプソンもいた。どうやら、あれからシンプソンと心を通わせているうちに恋愛関係に発展していたようだ。それが気に入らないジェシカだったが、シンプソンがキルグレイブを捕らえておくための密閉室を用意できるとのことなので、渋々ながら彼の協力を受け入れる。
街から離れた場所に、その施設はあった。元々は疫病管理センターが感染患者を隔離しておくために使っていたという施設、そこにある密閉室は完全防音であり、しかも、なかの様子は外からガラスで丸見え。キルグレイブを閉じ込めておくのに最適な部屋だった。
ジェシカたちはキルグレイブ捕獲作戦を実行する。屋外のカフェでマルコムと会っているところを、シンプソンが麻酔銃で狙撃。キルグレイブは眠りに落ちた。すぐさまジェシカがキルグレイブを担いで車に乗せようとするが、カフェ内から護衛の男たちが出てくる。一度は護衛を巻いたジェシカたちだったが、施設まで来たとき、キルグレイブの服に発信機がついていることに気づく。その直後、護衛たちが数台の車で追ってきた。ジェシカとシンプソンは護衛たちと戦うが、棒状のスタンガンで武装したプロを前に苦戦し、みすみすキルグレイブを持ち去られてしまう。作戦は失敗した。
その後、アパートに戻ったジェシカは、マルコムが売人からクスリをもらおうとしていた現場に遭遇する。ジェシカは売人を追い払い、マルコムをトイレに引っ張って、彼の手首とパイプを手錠でつなぐ。狂ったようにクスリを求めるマルコムは、もう自分には価値がないとすべてに絶望していた。そんな彼に、ジェシカは、「あんたが死んだらキルグレイブの勝ちになる。クソみたいな生き方はやめて、まともな人間に戻って、一度くらいは私を助けたら?」といってクスリが入った袋を渡す。それは、クスリの魔力に抗うか、それとも敗北するかを選べという選択だった。その後、ジェシカは彼の元を離れる。
翌日、キルグレイブからジェシカに電話がかかってくる。彼は、マルコムを見逃すかわりに、ある条件をジェシカに要求する。それはジェシカにとって屈辱的な要求だった。はたしてジェシカは、そしてマルコムはどうするのか──。
感想
前半の名エピソード。
まず、この回でジェシカがスーパーヒーローになり、キルグレイブと出会うまでの過程が描かれている。過去回想で登場するジェシカは、表情が明るく、よく笑う。サンドイッチの着ぐるみ姿でチラシを配布するというユニークな一面もある。現在の、汚物を吐き出しそうな表情とはまったく違う。キルグレイブに操れる毎日がいかに苦痛だったか、よくわかるというものだ。
基本的にシリアス路線の本作だが、今回は笑えるシーンが多い。上述の着ぐるみのシーンも面白いが、特にシンプソン関係が笑える。ジェシカがトリシュの部屋を訪れた際にパンツ1枚で現れたり、密閉室の防音性を確認するためにシンプソンがなかに入って、外にいるジェシカとガラス越しに悪口を言い合ったりするなど、ストーリーの合間合間で清涼剤になっている。
もちろん、シリアス方面のシーンも見応えがある。一般人に変装したシンプソンが、キルグレイブに近づいて麻酔弾を撃ちこむところは緊張感があって面白い。また、キルグレイブが露店の本を堂々と盗んでいくシーンも良い。彼の能力なら「私に本を寄越せ」といえば済むところを、わざわざ露店の主人の顔に(自分で)熱いコーヒーをかけさせ、痛めつけてから盗んでいく。短いが、彼の性格がよく表れているシーンだ。
さて、今まではただのジャンキーでしかなかったマルコムだが、今回の話で、元々は福祉関係の仕事をしていた真面目な青年だったことが判明する。キルグレイブに関わってしまったことで絶望の淵に立たされたわけだが、今回の終盤で行った決断により、彼のキャラクター性は一気に変化する。これからマルコムはどうなっていくのか、そこもストーリーの見所だ。