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姫呂ノート

散文的な個人ブログ

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【書評】『作家の収支』(森博嗣)

読書

作家の収支 (幻冬舎新書)

小説家は、どのように収入を得ているのだろうか。そして、ものを書くにあたってどういう支出があるのか。その辺りの事情が書かれているのが、森博嗣の『作家の収支』である。なかなか興味深いテーマだったので、Amazonで予約して購入した。

最初に、森博嗣という作家について説明しておこう。森博嗣は1996年に『すべてがFになる』でデビューして以来、19年間で小説、ブログ本、エッセイ、絵本など数々の作品を発表している。ミリオンセラーは一度もないが、多作(なんと280冊!)で、ファンからの人気も根強いため、総収入15億円の稼ぎを生み出している。2010年にはAmazonの殿堂入り作家20人のうちの1人に選ばれたこともある。最近は、『スカイ・クロラ』が押井守監督の映画になったり、『すべてがFになる』がドラマ化・アニメ化したりしているので、名前を知っている人も増えたのではないか。ただし、それでも絶対にメジャーになることはない。「マイナーの良さ」が森博嗣作品の味わいだし、本人もそれを狙って書いている。

本書は、単に印税や原稿料について説明されているだけでなく、「今後、作家はどうしていけばいいのか」という方法論にも言及されている。この部分は、作者の別書である『小説家という職業』と結論が共通している。どういう結論かというと、「作家は、とにかく書くしかない」である。ただし、『小説家という職業』から5年経っていることもあり、現在の出版事情を踏まえて論じられている点が異なる。

新人は、とにかく良い作品を次々と発表するしかない。発表した作品が、次の仕事の最大の宣伝になる。それ以外に宣伝のしようがない、と考えても良い。したがって、最初のうちは、依頼側が期待した以上のものを出荷する。価格に見合わない高品質な仕事をして、割が合わないと感じても、それは宣伝費だと理解すれば良い。最も大事なことは、多作であること、そして〆切に遅れないこと。1年に1作とか、そんな悠長な創作をしていては、たとえ1作当っても、すぐに忘れ去られてしまうだろう。

さて、上記以外で、僕が本書を読んでいて気になったことを箇条書きしていこう。

  • 森博嗣はMacのPagesで執筆している。
    (客観的にはどうでもいい部分だが、僕は他人が使っているツールが気になる性格なのでメモ)
  • 作家という職業において、収入の差を分けるのは作品の「質」ではなく、読者の「量」である。
    (本の値段がほとんど同じであるため、必然的にこうなる)
  • ネットは既に一般化しており、情報発信による宣伝効果は低い。
    (情報発信の場として自分のサイトは持っていたほうがいいが、宣伝効果は期待しないこと。SNSも同様)
  • 取材旅行の話はちょっと笑った。たぶん、森博嗣が推察しているように、旅行に行きたいのは編集者のほうなのだろうな。
  • 作品を公開したあとの反響について。マイナスの反響で落ち込まないことは当然だが、プラスの反響で有頂天になることはもっといけない。内容を真に受けず、反響の数を重視すること。
  • 作品の無料配布は、宣伝のための期間限定サービスと考えておく。「作品がいつでも無料で手に入る」という感覚を蔓延させてしまうことは、作家自身のためにならない。
  • スランプになるのは、「好きだから」とか「自慢したい」、「称賛されたい」というような感情的な動機だけに支えられているから。
    (仕事ならば嫌々でも書かなければならない)
  • 「新しさ」を意識する。
  • 大事なのは「どう書くか」ではなく、「書くか」である。

この本は、これから小説家を目指す人にはほとんど必読といえる。僕は、あまり「必読」などという使い古された言葉は使いたくないが、本書に関しては例外だ。作家志望の人が読めば必ず役に立つ。