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姫呂ノート

散文的な個人ブログ

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【書評】『絶望名人カフカの人生論』(フランツ・カフカ、頭木弘樹)

読書

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

本書を読むまで、フランツ・カフカという人を、僕はあまり知らなかった。有名な作家なので名前は知っていたし、代表作の『変身』という小説を読んだこともあった。しかし、カフカ本人のことは何も知らず、ただ漠然と、偉大な作家なのだからさぞかし立派なことを言う人なのだろう、と思っていた。それは間違いだ、ということを教えてくれたのが、本書『絶望名人 カフカの人生論』である。

カフカは、20世紀を代表する作家と見なされている。実際、『変身』を読んだとき、ほかの作家とはまったく違った才能、異質な天才性を感じた。ある日、男が眠りから目覚めると毒虫に変わってしまっていたという物語だが、特徴的なことに、この毒虫の詳細な姿は描かれない。また、主人公とその家族が住む家も、常識から外れたおかしな構造になっている。リアリティよりもイメージが優先されたその描写は、後の作家に大きな影響を与えたという。

本書は、そんなカフカのネガティブな言葉の数々を集めたものだ。

カフカの関心は徹底的に自分にだけ向けられている。外部のことには一切目もくれない。しかも、自分の良い面はまったく無視し、悪い面だけをひたすら掘り下げていく。それはまるで、自分の弱さを確認し、補強していくようでさえある。

たとえば、こんな具合である。

バルザックの散歩用ステッキの握りには、
「私はあらゆる困難を打ち砕く」と刻まれていたという。
ぼくの杖には、「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある。
共通しているのは、「あらゆる」というところだけだ。 ぼくはただ自分のことばかり心配していました。
ありとあらゆることを心配していました。
たとえば健康について。
ふとしたことから消化不良、脱毛、背骨の歪みなどが気にかかります。
その心配がだんだんふくれあがっていって、
最後には本当の病気にかかってしまうのです。 ぼくの人生は、
自殺したいという願望を払いのけることだけに、
費やされてしまった。

精神的に、社会に適合することができなかった。父親には理解されず、学校では劣等生で、三度の婚約はすべて破棄、文学以外に情熱を持てなかった。そんな男が唯一誇れるのが、自分の弱さだけだった……カフカの言葉の1つ1つから、そういう悲しみを感じる。

カフカは自分の弱さを嘆きつつ、克服するどころか、むしろ弱さを極めようとさえしていたように見える。そこが、常人とは異なる、カフカの天才性の根源だったのだろう。僕も精神疾患を抱えて苦しんでいるが、こんな生き方はとても真似できない。弱さを突き詰めるカフカの姿に、かえって強さを見てしまうくらいだ。

本書は、読む人の置かれた状況によって、印象が変わってくるだろう。人生にそこまで絶望していない者にとっては、カフカのネガティブぶりに笑えてくるだろうが、これが絶望の淵にいる者の場合、カフカの言葉は他人事ではないはずだ。