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生存戦略タイプの対談〜『ひらめきの教室 「弱者」のための仕事論』読書感想

『ひらめきの教室 「弱者」のための仕事論』という本を読んだ。

本書は、漫画家・松井優征とデザイナー・佐藤オオキの対談を記録したもので、サブタイトルに『「弱者」のための仕事論』とあるように、弱者=才能がないクリエイターによる仕事論が展開される。

知っている人も多いと思うが、松井優征さんは『魔人探偵脳噛ネウロ』や『暗殺教室』といった作品でヒットを飛ばした売れっ子漫画家だ。一方の佐藤オオキさんも、株式会社nendoの代表として世界中から依頼を受けるデザイナーであり、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で取り上げられたこともある。

一般的に見れば「この2人は弱者ではないのでは?」と思うところだが、当の本人たちにしてみれば、自分の才能にあまり自信がないようだ。

たとえば、松井さんは安定志向で、最初は公務員志望だった。しかし、自分に公務員の適正がないことがわかり、あきらめて漫画家を目指すことにした。漫画が大好きで漫画家になったという人ではない。自分の漫画に対しても、絵が下手だと思っている。

佐藤さんも最初からデザイナー志望だったわけではない。学生時代、外国で行われたデザインのイベントを見て、その場のノリで事務所を立ち上げたが、基本的には周囲に流されるタイプだという。普通のデザイナーは弟子入りしてノウハウを学ぶが、佐藤さんはそういったことはやっていない。行き当たりばったりで、廃業の危機も何度かあったそう。

そんな2人がクリエイターとして高い評価を得るまでになれたのは、弱者なりに弱点を補う工夫をしたから。松井さんの場合で言えば、「絵が下手だから上手になろう」とするよりも、「絵が下手なぶん、違うところを伸ばそう」という姿勢のたまもの。

2人とも、「最高の作品を作ってやるぜ!」と情熱に燃えるタイプではなく、むしろ「どうやってこの世界で生きていくか」と生存戦略を考えるタイプ。クリエイターは基本的に情熱タイプが多いので、こういう生存戦略タイプの対談は珍しい。

そのぶん、意見が偏っているという感じもある。たとえば、上記の「絵が下手なときの克服法」だが、松井さんは長所で補うやり方を選んだが、努力して上手になる道を選んでも間違いではない。この対談で語られていることは、あくまで「この2人のやり方はこう」という程度に受け止めておくのがいいと思う。

以下は、本書の中で気になった部分をメモ。

  • 「人は基本的に無関心。自分の作品を『自己満足じゃないか?』と思えるかどうかがクリエイターとして大事」

  • 「外見、セリフ、特殊能力……といったものを検討してキャラが生まれても、それで終わりじゃない。それをどうやって動かすか、という運用法までわかっていないキャラは、キャラとはいえない」

  • 「完璧なデザインよりも、どこか調子が悪かったり、不便なところが1つくらいあるほうが、人は愛着を持つ」

  • 「たとえば、冷蔵庫をデザインしろと言われたとき、実用性についてリサーチをしたら、アイデアは絶対に出てこない」

  • 「今まで自分が学んできたこと、経験してきたこと、築いてきたこと、作った作品、それを『大したことないな』と捨てられること。そういう姿勢も面白いものを作るためには必要」

  • 「技術は大事だが、所詮、技術は技術でしかない。そこに重きをおいてしまうと、一番大事なアイデアの部分を見失ってしまう」

  • 「仕事は前提としてつらいものと認識したほうがいい。あとで振り返ってみて『けっこう楽しかったな』という程度のもの。そこを履き違えて、ずっと幸福感に包まれている状態を想像すると、がっかりする」