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姫呂ノート

散文的な個人ブログ

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『ドクター・ストレンジ』のテーマが心に響いた

アメコミ 映画

映画『ドクター・ストレンジ』は期待していたとおりの面白さだった。映像表現が圧巻で、過去の映画を踏襲しながらもさらにダイナミックにしている。また脚本も、新たなヒーローの誕生を段階的に描いていた。

そしてなにより、テーマが心に響く。

魔術世界の映像

まず何よりも映像が凄い。噂には聞いていたが、実際に目にすると不可思議な魔術世界に圧倒された。

本作の魔術師たちは、「ミラー次元」と呼ばれる空間を展開することができる。ミラー次元の中で起こったことは現実世界には影響を与えない。さらに闇の魔術師たちの場合、暗黒のパワーでミラー次元を自在に操作できる。ニューヨークの街を分裂させたり、重力の方向を変えたり……まさに空間の支配者だ。この描写が凄い。『マイティ・ソー』とはまた異なるファンタジーを見せてくれる。

映画的に言えば『インセプション』や『マトリックス』で、それらの表現を取り入れている。この2作の映像が好きな人だったら間違いなくハマる。

それでいて、魔術師たちの武器が剣や扇なのだから面白い。もちろん、現実の武器ではない。魔力で作りだした武器だ。たとえば、本作の悪役であるカエシリウスが使うのは透明な剣、ストレンジの師であるエンシェント・ワンが使うのは光の扇、そしてストレンジが使うのは光のムチだ。炎や雷といった、よくある魔法描写を行わなかったところにこだわりを感じる。

どん底から再起するドクター・ストレンジ

脚本も丁寧で良かった。傲慢な天才外科医がスーパーヒーローになっていく過程をステップを踏んで描いていた。

事故による後遺症により、両手が麻痺してしまった天才外科医のドクター・ストレンジ。日常生活は可能なものの、精密さが要求される外科医の仕事は不可能に。築き上げたキャリアを諦められない彼は、ワラにもすがる思いで「カマー・タージ」を尋ねる。そこでエンシェント・ワンによって魔術世界を体験したストレンジは、自らも魔術を学ぶ決意をする。一方、闇の魔術師であるカエシリウスは、禁断の儀式を完成させるべく動き出して……というのが大まかなあらすじ。

ポイントは、当初のストレンジの目的は、あくまで両手の治療だったこと。魔術を学んだのも、その力で両手を癒やすためだった。しかし、カエシリウス一派との戦いの中で、彼は医者の道を諦め、魔術師として生きることを決意する。それはけっして妥協ではない。新しい人生を手に入れたのだ。

戦いの末にカエシリウスの野望を防いだとき、「ドクター・ストレンジ」の名は医者からスーパーヒーローへと変化する。『シビル・ウォー』でアベンジャーズが崩壊したあとだからこそ、新たなヒーローの誕生が輝いて見える。

失ったからこそ得られたものがある

本作は「失われた時間」がテーマになっている。上述したように、ストレンジの目的は両手を治すことだった。一方、カエシリウスが闇の力に傾倒する理由は永遠の命──もう二度と時間が失われない世界を手に入れるためだ。

失ったものを取り戻そうとするストレンジと、何物も失われない世界を目指すカエシリウス。両者はある意味では同じだった。

しかし、戦いの途中で、ストレンジは今までと違う道を行くことを決める。

医者時代のストレンジは傲慢で、他人への気遣いがまったくできなかった。だがすべてを失い、エンシェント・ワンと出会い、1からやり直した彼は、その過程で自分に欠けていたものにようやく気づく。そしてエンシェント・ワンの秘密を知ったとき、彼は命をかけて、他人のために戦うようになる。

一方、ストレンジよりも先にエンシェント・ワンの秘密を知ったカエシリウスは、彼女の使命の重さを理解することなく、むしろその力に嫉妬する。永遠の世界こそが人々の理想だと説く彼だが、頭の中にあるのは自分のことだけであり、他人への思いやりが決定的に欠けている。カエシリウスとは、言わば傲慢さを捨てきれなかった、もう1人のストレンジなのだ。

失われた時間に固執しつづけるカエシリウスと、新たな時間を刻みだしたストレンジ。大切なものが失われるのは悲しいことだ。だが、失ったことを受け入れ、前に進んでいけば、思いもよらなかったものを得られる。この物語は、人生に絶望したことがある人ほど心に響くだろう。僕のように。