「息をするな」から沈黙へ〜映画『ドント・ブリーズ』感想

とある古い屋敷に強盗に入った3人の若者が、盲目の老人に返り討ちにされる──。初報を目にしたときからずっと気になっていた映画、『ドント・ブリーズ』を見てきた。期待通りの傑作だった。ドント・ブリーズ(息をするな)の名前が示すとおり、シチュエーション型のホラーで、ゴア表現はまったくなく、殺人自体も少ないものの、胸が潰れそうなくらいの緊張感が味わえる。

以下、ネタバレなしで感想を。

あらすじ

主な登場人物は4人。強盗に入る3人の若者──ロッキー、アレックス、マネーと、屋敷の主人である盲目の老人(愛情を込めてジジイと呼ぶ)だ。ジジイは元軍人であり、戦場で手榴弾の破片を受けたことが原因で盲目になった。家族は最愛の娘が1人いたが、その娘も交通事故で失ってしまい、その際に得た多額の示談金(最低でも30万ドル以上)を抱えて孤独に暮らしている。

一方、主人公のロッキー(ボクサーみたいな名前だが女性)は、恋人のマネー、友人のアレックスとともに強盗をしながら生活していた。なぜ強盗をするのか。それは彼らが貧困だからだ。そもそも舞台となっている町が全体的に廃れており、道路はひび割れ、廃屋もたくさんある。さらにロッキーの母親は子育てにまったく関心がなく、むしろ侮蔑しているありさま。そんな環境で生きていくために、彼らは仕方なく強盗している。

強盗の際には、2つのルールがあった。現金は盗まないことと、被害合計が1万ドルを超えないようにすること。しかし、それで得られる金額は微々たるものだった、そんなとき、マネーがジジイの噂を聞きつけてくる。成功すれば町から脱出することさえ可能。特に幼い妹を抱えているロッキーにしてみれば、30万ドルは是が非でもほしい。こうして、彼らは最初で最後のルール破りを決行する。それが高い代償になるとも知らずに……。

さりげなく上手なカメラワーク

この映画はさりげなくカメラワークが上手い。最初に3人が屋敷に侵入したとき、金をありかを探す彼らを映しつつ、屋敷全体の状況も提示していく。ある部屋にはノコギリがあったり、またソファ(ベッドだったか?)の下に拳銃が隠されていたりと、これから悪いことが起こることを予感させる。実にスマートな伏線の張り方だ。

簡単に密室化してしまう屋敷

「そうは言っても屋敷からの脱出なんて簡単じゃないか?」と鑑賞前は思っていたが、まったくそんなことはなかった。

ジジイは侵入者の存在を知ると、即座に拳銃を奪い取り、次に出入り口になりそうな場所をすべて塞いでしまう。玄関ドアを施錠(内側からも鍵がないと開けられないタイプ)し、窓ガラスには木の板を打ちつける。逃げようとすると容赦なく発砲してくるし、その直前に若者たちはジジイの恐ろしさを見せつけられているので、隠れて息を潜めているしかない。こうして、あっさりと屋敷は密室化してしまう。

その後、なんとかしてジジイにバレずに脱出しようとするロッキーたちだったが、当然ながら途中でバレてしまい、いよいよ追い詰められていく。

若者たちは複数なので、連携すればジジイに立ち向かえるように思うかもしれない。しかし、実際に映像としてジジイの強さを目の当たりにすると、あんな爺さんに立ち向かうなんて正気の沙汰じゃないという気持ちになる。また、自分たちの武器であった拳銃も奪われているので、複数で襲いかかっても1人は殺されてしまう可能性が高い。だから若者たちは、震えながら逃げるしかないのだ。

息をするな

そして本作一番の面白さは、やはりシチュエーションだろう。ジジイは盲目なので、たとえ廊下ですれ違ったとしても、音さえ立てなければやり過ごせる。だが逆に、音を立ててしまうと──それが呼吸音だったとしても──ジジイに襲われてしまう。頻繁に鼻で匂いを嗅いだり、耳を澄ませたりして周囲の状況を把握するジジイはさながら猟犬のようで、獣に追われているような恐怖感がある。本当に怖い。

そして沈黙へ

公開中の映画なのでネタバレはしないが、エンディングは、自由の代償というものを強く感じさせられる。若者たちとジジイ、どちらも哀れな者同士であるのだが、しかし彼らは、自らの本願を達成するために争わざるをえない。

被害者側のジジイはけっして善人ではないし、加害者側の若者たちも根っからの悪人というわけではない。逃走の途中、若者たちはジジイのとある悪事を発見する。それは実に吐き気を催すものであったが、自分たちもまた悪事を働いているため、見逃さざるを得ない。ドント・ブリーズ──息をするな──は、最後には沈黙という名の十字架になる。こうしたラストも含めて、まさしく傑作だった。