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姫呂ノート

散文的な個人ブログ

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超一級デザイナーと異なる才能が出会うとき

読書

『ミード・ガンダム』から得られるもの

『ミード・ガンダム』という本がある。

アニメ『∀ガンダム』で、主役機の∀ガンダムを始めとしたオリジナル・モビルスーツを手がけたシド・ミード氏。本書は、そのミード氏によるデザイン画をプロット段階から掲載しつつ、あの独特のモビルスーツたちがどのように誕生したのかを解き明かしたものだ。

僕はガンダム作品はそれなりに見てきているが、現在でもモビルスーツのデザインは『∀ガンダム』がベストだと思っている。それは従来のモビルスーツのデザインが、「人間をメカに近づけたもの」とでも言うべきコンセプトなのに対し、同作品では、「メカを人間に近づけたもの」という逆転が行われているからだ。あくまでメカであり、マシーンであることがベースなのである。だから∀ガンダムの頭はぐるぐる回転するし、腰の高さが一定のまま走るのだ。

そういうわけで、以前から本書のことは気になっていたのだが、値段の高さから購入を迷っていた。しかし、先日、本書のレビュー記事を偶然にも目にし、ようやく決心がついた次第である。

bustuyoku.hatenablog.com

さて、本書を読んでなにが得られるかといえば、これはもう、シド・ミードという超一級デザイナーの、デザインに対する姿勢に触れられることである。よって、ガンダムファンというよりは、デザインマニアにこそ本書を勧めたい。ちょっとでもデザインに興味がある人なら、大いに楽しめるだろう。

衝撃の∀ガンダム初期デザイン

主役機である∀ガンダムの初期デザインについて、富野由悠季監督は、「こちらが零戦を頼んだのにグラマンが上がってきた」と述懐している。最初に目にしたときはスタッフ一同で衝撃を受けた、と。後にこのデザインは「モビルスーツ・スモー」としてリファインされることになるのだが……それはともかく、この問題となった初期∀ガンダムというのが、以下である。

強烈なインパクトを放っているデザインで、明らかに従来のガンダムとは一線を画しているのだが、これがミード氏なりに今までのガンダムを分析した結果だというのだから驚かされる。そのメモも残っている。

まず、いままでのガンダムを分析することから作業をはじめた。そこでスタイルに関する結論が出た。ヒップ周辺には明確にフレキシブルなプレートの“スカート(被い)”が連続的に使用されていて、ヒップのジョイントを隠している。これは中世封建時代の日本と古代帝政時代のローマの戦闘の鎧から由来している。そこで、今回は上半身の下部を削って(上半身を)きわ立たせ、ヒップのポールジョイントを露出させ、太腿の外側のプレートを露出させたヒップのジョイントのトップまで釣り上げた。これまでのガンダムは“衣装を着ている”ように見えたが、これによりガンダムはよりマシーン的に見える。今回はヒップのユニットをヒップのポールジョイント用のカバーのように単純に処理してみた。“スカート”を“ブリーフ”に変えたようなものだ。

さて、ブリーフを履いたガンダムに大きなショックを受けた富野監督であったが、これはこれで気に入ったらしく、このデザインをベースにして「スリムにすること」「もっと保守的なデザインにすること」という修正指示を出す。その末に完成したのが、我々がよく知る∀ガンダムである。

アンチヒーローとしてのターンX

このほかにもいろいろなモビルスーツの設定画が掲載されているが、その中でも僕が注目したのが、やはりラスボスであるターンXだ。

本編のラスボスであり、ミード氏はターンXを「アンチヒーロー」と位置づけてデザインしている。そのメモも興味深い。

元来、アンチヒーローとは“善”の側から飛び出して、権威にそむくようになった者を指す。こうしたことから、彼は“善”の側の弱点を熟知しており、“善”の側の行動やモラルの“善良さ”につけこむことになんら良心の呵責を感じないので、有利な立場に身をおいている。この特徴によってもたらされるものはなにか……。
神話におけるアンチヒーローは、社会ルールを破ることからも、とても興味深いキャラクターである。ただし、アンチヒーローは、その社会ルールの破壊にたいする“代償”をいつか払わねばならない。また一般的に、アンチヒーローは、彼の抹殺もしくは破滅を目的とする幾多の試みを生き抜いた者である。この点がダークな魅力というアンチヒーローの歴史を築いてきた。この“過去の戦闘によるダメージ”のアイデアを、ターンXのキャラクターデザインに利用しようと思う。

そしてターンXは、∀ガンダムと似ていながらも正反対の存在としてデザインされる。

異なる才能のぶつかり合いが生んだもの

ミード氏のデザインワークは、まず各モビルスーツの背後にあるストーリーを理解することから始まる。その後、クライアントの要望に応えつつ、自分なりに納得のいくデザインに仕上げていく。その際、ミード氏は論理性・合理性を重視する。

そのため、玩具として成立させるために、本来の兵器には不必要なほどの可動範囲を要求するバンダイ側や、文学的なセンスを持つ富野監督とは衝突する場面が何度もあったようだ。しかし、そうした異なる才能のぶつかり合いが、あの独特かつ洗練されたモビルスーツ郡を生み出した。

そういう意味で、やはり『∀ガンダム』という作品は、奇跡的なプロジェクトだったのだと思うのである。

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