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姫呂ノート

散文的な個人ブログ

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アスペルガー症候群は作家にどのような影響を与えたのか

読書

作家たちの秘密: 自閉症スペクトラムが創作に与えた影響

作家たちの秘密: 自閉症スペクトラムが創作に与えた影響

偉大な作家であるアンデルセンやルイス・キャロルは、アスペルガー症候群だったと目されている。無論、当時の彼らが精神科医による診断なぞ受けたはずもないので、記録された生活の様子からそう推測しただけなのだが、研究者によれば明らかにアスペルガー症候群の特徴を示しているという。

『作家たちの秘密: 自閉症スペクトラムが創作に与えた影響』(ジュリー・ブラウン)は、何人かのアスペルガー症候群の作家の執筆プロセスを見ていき、その共通項を見出すことで、アスペルガー症候群が作家にどのような影響を与えていたのかを考察したものである。

なお、現在では「アスペルガー症候群」は正式な障害名としては使われておらず、「自閉症スペクトラム」という名で呼ばれている。タイトルにアスペルガー症候群と書かれていないのはそのためである。とはいえ、アスペルガー症候群のほうが一般的にはイメージしやすいので、この書評でもそう呼ぶことにする。

ひと口にアスペルガー症候群といっても、会話自体が困難な重いものから、普通の生活を送ることが可能な軽いものまで症状はさまざまであるが、そのなかで目立った特徴は以下のようなものがあるという。

  • 社会的規範の理解、他者から自分がどう見られるかという意識、動機の推測といった局面で作家側に難があるため、どう書いたら読者はどう受け止めるかといった考えや、登場人物の造形についても影響が出る。
  • 作家個人の言語コミュニケーション能力が、さまざまな問題によって影響を受けている場合、作家の独特な言葉の使いかたが、その考えを読者に伝わりにくくさせるが、同時にそれが優れた芸術的能力を逆説的に与えることにもなる。
  • 作家の考えかたが固定的で、思考・行動・想像力に柔軟性を欠く。このような思考パターンは執筆活動や執筆ジャンルの選択、さらには文学的な決まりごと、といった面に影響を及ぼす。一方で、作家は長時間の執筆活動に高い集中力を持続できる、という利点もある。
  • 作家は個人的に、感覚認知の過敏、未発達、統合欠如、混合(共感覚)など、多くの感覚的な障害や問題を何度も経験している。生身の実社会を言葉で表現するとき、これらが影響を及ぼす。

これらの特徴が、創作において具体的にどのような影響を与えるか。以下に簡単にまとめる。

アスペルガー症候群の作家の特徴

  • 執筆プロセスは乱雑であり、首尾一貫した物語を紡いでいくのではなく、いくつもの断片的な下書きを貼り付けていく「コラージュ手法」を用いて作品を書き上げていく。
  • 他人からどう思われるかが想像できないため、しばしば読み手を軽視した文章を書く。
  • 自分だけのルールにこだわる反面、一般的な慣習には反発心を覚える。そのため、掟破りの作品を生み出すことがよくある。
  • 物語のプロットを作ることが困難であり、長編よりも短編や詩、エッセイなどのほうが得意である。
  • 伝統的なプロットの代用品として、反復を用いることが多い。気に入った単語やフレーズ、エピソードなどを何度も繰り返す。
  • 最初に全体を考えるのではなく、細部から全体に広がっていく書き方をする。
  • 複雑で深みのあるキャラクターを考えるのが苦手であり、派手で特徴的なキャラクター造形を好む。また、自分自身を投影したキャラクターを登場させたりもする。
  • 意味合いや美しさを伝えるため、何らかのシンボルを使うことが多い。
  • 社会からの孤立、他人とは違う自分を受け入れるというテーマを好む。
  • 言葉に執着し、時には自分で言語を生み出すことさえある。

書くことはコミュニケーションの手段

本書を読んでわかるのは、アスペルガー症候群の作家にとって、書くことが外部とコミュニケーションを取るためのかけがえのない手段であるということだ。好きだからとか、お金がほしいからというより、日常で満たされないコミュニケーション欲を満たすために書いている。また、自伝を書くものは、自分の過去を書いてみることで人生に何らかの意味を見出そうとしている。そのように感じた。

本書の最後のほうで、とある作家の「自閉症を根絶しようとするのではなく、すべての人に『人並み』を求めるのをやめてほしい」という訴えが載せられていた。まったく同感だ。実は、僕が本書に興味を持ったそもそも理由は、僕自身が軽いアスペルガー(自己診断だが、ほぼ間違いないと思っている)だからなのだが、病気や障害ではなく、個性として見てほしいと常に思っている。

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